第24章 春高一次予選開始!
次に練習予定だった大学生の方が見えていたので、挨拶もそこそこに私たちはお家を後にした。
「鈴木さん、ありがとう!」
『ううん、また明日ね』
「うん、また明日!じゃーな影山」
「おう」
自転車で去ってゆく日向くんの後ろ姿を見つめながら、私たちは並んで歩いていた。
「なあ、美里」
『…ん?』
「お前、なんでずっと泣きそうな顔してたんだ」
『!』
「烏養監督に挨拶して、そこから変だった」
どうして飛雄にはバレちゃうんだろう。
驚いて顔を見上げると、その目には心配の色が強く滲んでいた。想像していなかった飛雄の表情に、私はパッと目を逸らす。
「…なんで逸らすんだよ」
あまり聞いたことのない優しくて甘い声、なぜか胸がドクンと鼓動する。…な、なんだこれ、変だ、私すごく変。私はおかしな自分を隠すように慌てて口を開いた。
『あっ…あのね!なんか…その、』
「どうした」
『思い出しちゃって…一与さんのこと』
「………」
『一与さんと烏養監督、多分年齢も近いと思うんだ。だから、もし一与さんが元気だったら、あんなふうに一緒にバレーをしてたのかなって想像したらちょっとね』
「…元気だったらな」
『うん…あぁ、一与さんにも見せてあげたかったなぁ!飛雄が2m40cmのネットでたくさん活躍してるところ。私ね、最近仏壇の前で飛雄がバレーしてるところをたくさん思い浮かべるんだよ』
「なんで?」
『そしたら、一与さんも見られるかなって』
「っ…バカだな」
『バカかな』
「……やっぱ、バカじゃねえ」
『ふふ、ありがと』
さっきまでの変な感じがなくなって、今度は心がポカポカと温かく感じられた。
『そういえば、飛雄はさ』
「ん?」
『一与さんが白鳥沢学園の卒業生って知ってた?』
「あぁ…知ってた」
実は私は最近知った事実だった。
一与さんの部屋でストレッチの本を読んでいた時、近くに白鳥沢学園の卒業証書を見つけたのだ。
『だからあの時、飛雄は白鳥沢学園に行きたいって言ったの?』
「それもある…一与さんの言ってたことが正しかったのか、行けば分かるかもしんねえって思ったから」
『…そっか』
「まぁ、入れすらしなかったけどな」
飛雄は、前髪をかき上げながらそう言った。