第1章 キミが泣いたあの日
「な…っ…おい、美里!」
『影山くん外だよ、名前で呼んじゃダメ』
「これの方が絶対ダメだろーが!」
『たしかに』
喋るたびに触れ合った肌から低い声が振動する。
あついのは夏のせいか、互いの体温のせいか。
全身に力が入ったようにカチコチとした彼からは試合後だというのにふんわりとシャボンの香りがした。
「っ…嗅ぐなよ」
『私のあげたシート、使ってくれてるの?』
「女みたいな匂いすんだよ…これ」
『じゃあ次はギャツビーにする、冷たいの』
「おう…ってかお前いい加減離れろよ、誰かに見られたらどうすんだ!」
とか言いながら、乱暴に押し退けたり立ち上がったりしないで受け止めてくれるあたりこの幼なじみは優しいのだ。そもそもこちらが抱きしめると言ったくせに体格差がありすぎて傍から見れば女が一方的にしがみついているようにしか見えないだろう。
いつの間にこんなに差がついたんだろ。
一見華奢に見える身体には意外と筋肉がしっかりとついていて、厚みも思っていたよりあって…なんかすごく男の人だった。
「おい…鈴木さん」
『バレー、辞めないよね?』
「は?……ったりめーだろ」
『そっか、よかった』
「それに、まだお前に試合を観せられてないしな」
『そ!?…だね、』
「?」
実は中学生になって部活が始まったとき「上手くなるまで試合には来ないでほしい」と言われていた。だから試合の時はサングラスで変装してコソコソ観に行っていた。
3年間バレていなかったことに安心していると、彼はハァーと長く息を吐いた。
「………っ…」
『…わ、』
突然、彼の長い腕がガバッと私の背中に回った。