第5章 第二体育館の烏たち
影山 side
制服姿の美里はしゃがんでボールを手にすると、ポイッと空へ放った。そして、軽く助走を付けて踏み切る。
ドッ!
空中で放たれたボールはまっすぐ俺のところへ向かってきた。
「……」
『……』
あいつは俺とほんの一瞬だけ目を合わせた。
そして頭を下げた日向に何かを手渡して背を向けて去っていった。
何してたんだ?こんなとこで。
「かかかか、かげやま!!!!!」
バタバタと駆け寄ってくる日向。
「…なんだよ」
「な、なんだよってお前今の!!!!!」
「あ?」
「はっ!?もしかしてお前知らねえの!?」
「…なにが」
「バカ!4組の鈴木さんだよ!!やっべえ、おれ会話しちゃった…!近くで見たの初めてだけど、超可愛かった!!」
「…………」
「え、影山、まじで鈴木さん知らねえの?」
「…知らねえ」
「あんな美女のことすら知らないとか、脳みそバレー馬鹿すぎない?」
「っせえな!知らねえもんは知らねえんだよ!!」
俺が日向の頭を手のひらで掴むと、日向の手から何か落ちた。
「あ〜っ!鈴木さんからの差し入れ!!」
「…は?」
地面を見ると、そこには紙パックの飲み物が2つ落ちていた。日向がそれを拾い、俺にひとつ寄越す。
「…あれ、これ影山がよく飲んでるヤツじゃん」
「………」
「頑張ってください応援してますって言われてさ…もうなんかゲロ吐きそうだった」
「今朝出したばっかだろ」
「はあ…これもったいなくて飲めないかも」
「じゃあ俺がもらう」
「いや、あげねーよ!?……ってかさ、」
「あ?」
「鈴木さん、ジャンプサーブ打ってなかった?」
「……おう」
「バレー好きなのかな」
「…知らねえ」
「もう影山くんってば、知らねえばっかでつまんなさすぎ!これクラスの男子だったら超盛り上がってたのに!」
「そーかよ」
「いいよなぁ、4組の男子!毎日同じ空間にいるんだぜ、どんな感じなのかなぁ!」
「別にどってことねえよ」
「なんで影山が知ってるみたいになってんだよ!」
「っ…ああもう、うるせえな!早く練習再開すんぞ!」
「まって、まだ飲み終わってない」
「ちびちび飲むんじゃねえよ!」
「だってもったいないんだもーん!」