第23章 止まり木
赤葦 side
烏野の主将に促された影山が鈴木さんの元に近付いていく。
なぜ主将は影山に声を掛けたんだ?自主練をしていたからとはいえ、2人の速攻が決まったのだからそれは日向でも良かったはずなのに。
それに、烏野のメンバーはこうして鈴木さんの元に向かったのが影山であることに何の疑問も抱いていない。鈴木さんに好意のある月島も、面白くなさそうではあるがそれには納得しているようにさえ見えた。
「赤葦、見たかよ」
「何がですか?」
「鈴木さんの泣いてる顔、めっちゃ可愛かった」
「…ああ、見ました。泣き顔結構ソソりますね」
「赤葦のそういう変態っぽいとこ嫌いじゃねーよ」
ケラケラと笑う木葉さんの声に釣られて、月島がこっちを見た。
「…月島は行かなくていいの?」
「いいも何も、仕方ないじゃないですか」
「え?」
「…僕はあの役目が回ってくる関係性じゃないんだから」
「関係性?」
諦めたようにそんなことを言った月島は、それでも2人のことをじっと見つめていた。
2人の会話はコートまでは届いてこない。何を話しているのかなんて全く分からなかった。
恋人ではないらしい2人の、本当の “関係性” とは一体なんだ?俺たちから背を向けた鈴木さんが、その泣き顔を影山にだけ許した理由はなんだ?
「…………」
知りたいことは何も見えてこないけれど、何かのタイミングでふっと笑った影山を見れば、鈴木さんのことを大切に思っているなんて明白だった。
影山がコートに戻ると同時に、鈴木さんは得点を示す笛を吹いた。
すると影山とネット越しに目が合う。
「「………」」
まるで鋭い刃物のような視線。
「…ハハッ、そういえば訂正してなかった」
「ん?なんだ赤葦」
「いや…なんでもないですよ」
俺は影山に、あえてニッコリと微笑んだ。