第23章 止まり木
影山 side
途中、谷地さんがタオルを渡してくれた。そのタオルを手に俺は美里に声を掛ける。
「おい」
『!……っ、』
「泣くなよ、審判」
『…泣いて、ない』
「嘘つけ」
台の上で俺の目線よりも高い位置にいた美里は、俺に合わせるようにしゃがみこんだ。
『うれしくて…』
「ん?」
『速攻…成功してほんとによかった』
「…ああ」
『頑張ってたもんね…諦めなかったもんね』
「お前もな」
『え…?』
「信じてくれてただろ、ずっと」
『…うん』
「正直、かなりしんどかった。先が見えなくてスゲー悩んだ」
『………』
「でもさっき、お前の言葉が浮かんだ」
『!』
──『信じてね』
俺はその言葉に背中を押された。
「お前がいてくれて良かった、ありがとう」
俺がそう言うと、バッと顔を上げた美里の目からまた涙がボロボロと零れ出した。
「〜〜っ!…バカ、まだ試合中だぞ」
『ぐへぅっ』
顔にタオルを押し付けるとカエルを踏んづけたような声を出した美里。
『もっと優しくしてくれても…』
「審判のくせにいつまでも泣いてる方が悪い」
『…ずびばぜんでじだ』
睨むように俺を見た美里の目は涙でキラキラと光っていた。
「……っ」
なにこんなとこで泣いてんだよ、バカ。
「おいお前、さっさと普通の顔に戻せ」
『な、なに!?今の顔は普通じゃないって!?』
「どう見ても普通じゃねえだろうが」
『はいはい…わかってますよ』
「何がだよ」
『ブスだって言いたいんでしょ、もう』
ブツブツいいながらタオルで顔を拭く美里にポツリと本音が漏れる。
「その逆だろ」
『……へぁ?』
聞こえたのか聞こえてねえのか、あまりの間抜けな声に俺は吹き出す。
「ふっ……バーカ」
『か、からかったな!?』
「うるせえ」
『ムカつくー!』
「それとお前、さっきの得点笛鳴らしてねーぞ」
『はっ…!』
慌てて立ち上がった美里は、ピッと笛を鳴らして烏野ベンチを指してからボールの落ちた箇所を手で示した。