第5章 第二体育館の烏たち
「なあ、美里はさ…」
『な…なに』
「…教頭がヅラだって知ってたか?」
『ヅ…あっははははは!!!』
「笑い事じゃねえんだよ!!」
『っふふ、入学式の朝、校長室で気付いたよ』
「…じゃあ今から言う話、絶対に誰にも言うなよ?」
『え、なに?』
「俺今日、あの中身見た」
『!?…なか、み…っちょ、ちょ、やめてお腹痛い!』
「だから笑い事じゃねえんだって!」
『笑い事以外のなんなのさ!…ってか、そのせいで入部出来なかったってこと?まじであんたなにやってんのバカ』
「まぁ…そうっちゃそうだけど、違ぇっちゃ違ぇんだよ」
その後飛雄から、事のあらましを聞いた。
飛雄が再会を果たしたというその人は、初戦が平日だったために観に行くことが出来なくて私は直接見ていない。でもその日の夜、なんかド下手だけどすげえヤツがいたという話をしていたのが鮮明に記憶に残っていた。飛雄がそんな風に相手チームを個人単位で話すのはあまり聞いたことがなかったから。
そして課題はチームメイトとしての自覚、か。
3年間チームメイトだったはずの国見くんと卒業式で目すら合わさなかった飛雄には、少し難しい話かもしれない。
ていうか、これ私に相談したいのかな。
もし聞かれたらなんて答えよう。
「仲間の意識って、どうやって持つんだ?」
『だぁー!』
「なんだよ」
『ん〜…一緒に同じ目標に向かうと仲間だなって思ったりすると思うんだけど…これピンとくる?』
「?」
『こないか』
「同じ目標ってことは要は勝ちてぇとかだろ?そんなん試合すりゃ当たり前に思うだろ、やるからには勝ちてぇし」
『あっ、それだ』
「ん?」
『“俺”が勝つぞ!ではなく“一緒に”勝つぞ!の精神だよ』
「…?」
『その人にさ、飛雄が一緒に勝とうなって心から言えたらそれは仲間の第一歩なんじゃない?』
「……んぬぬ」
いきなりはハードル高いよね…でも、
『飛雄』
俯いた飛雄が顔を上げた。
『私、早く飛雄の試合応援に行きたいな』
「………」
『だから、頑張りたまえよ』
「………おう」
すくっと立ち上がった飛雄が「もう寝る」というので時計を見ると、まだ20時30分だった。
「明日5時から朝練」
『アッ…ガンバリタマエヨ』