第23章 止まり木
「はあっ…はぁ」
『ツッキー、お疲れさま』
「っ…ありがと」
ツッキーはドリンクとタオルを受け取ると、上を向いてボトルから水を飲んだ。その様子をじっと見ていると、ツッキーは首を傾げた。
「…なに?」
『率直に聞くけど、なんかあった?』
「ないよ」
『わかりやすいね』
「…キミに言われたくないんだけど」
『で、なにがあったの?』
「だから別に何もないってば…」
ドリンクを私に戻して、タオルで顔を拭くツッキー。いつだったか考えたことが頭に浮かぶ。
──ツッキーには弱い部分を見せられる人はいるのだろうか、完璧じゃなくていいと言ってくれる人はいるのだろうか…
『ははっ……私じゃツッキーの止まり木にはなれないか』
「え、なんて?」
『ううん……あのさ、ツッキー』
「ん?」
『やる気って目に見えるものが全てじゃないよ』
「…は?なに急に」
『情熱とか熱血ってメラメラと燃え上がるような真っ赤なイメージがあるよね、でも炎は温度が高ければ高いほど青色で静かに燃えるの』
「………」
『やる気だって同じだと思う。静かなことと、やる気がないことは決してイコールじゃない…だって、静かで青い炎の方が温度は高いんだから』
「鈴木は何が言いたいわけ?」
『別に?これは、私のひとりごとです』
「随分でかいひとりごとだね」
『聞いてる人がいるからね、それに静かなやる気も…』
私はツッキーの目をじっと見つめる。
『見てる人はいるよ』
「!」
『周りに合わせなくていい、見え方が違うだけなんだから』
それだけ言って体育館に戻ろうと背を向けると、ツッキーは小さく呟いた。
「こんなの、たかが部活だろ」
絞り出された苦しそうな声、
私は思わず振り返る。
「…あんな一生懸命にやって何になるのさ、バカなんじゃないの?キミの幼なじみは」
『………』
「部活なんか、何かしらやらなきゃいけないからやってるだけ。そこにやる気なんて微塵もない、そんなもんでしょ」
『ふ、ははっ!』
「っ…なんだよ!?」
『ううん。…一生懸命にならないでいい理由を探し続けるのは大変だろうなと思って』
「はあ!?」
私は今度こそ体育館に戻った。
強く拳を握るツッキーをそこに置いて。