第22章 初めての東京遠征
谷地 side
体育館を分けて自主練を行うようになって早二週間。それぞれの課題にひたむきに取り組んでいた。
私はいつもシンクロ攻撃のボール出しを清水先輩と交代で行っている。最初は空振りも多くバラバラだった助走やトスも段々と揃ってきて、実践で使える日も近いかもしれないとみなさんも嬉しそうだった。
さぁ、今日もボール出しだ!気合を入れて体育館に入ると、先輩たちが立ったままある場所を見つめていた。
「どうかしたんですか?」
「あれ見て…」
清水先輩の指の先を見ると、そこには先に自主練を始めた影山くんと美里ちゃんの姿があった。
『「………」』
ポーン
ドッ…
それはいつもと変わらないトス練習だったけれど、しばらく見ているうちに私も何か違和感を覚え始めた。
それは、ボール出しをする美里ちゃんとそれを待つ影山くんが、一切言葉を交わさずに練習をしているということ。
私が影山くんにボール出しをする時、必ず声がけを行ってタイミングを合わせている。それは美里ちゃんが他の人と練習する時もそうだ。
でも目の前の2人は、そうした声がけや言葉がなくてもお互いのタイミングを完璧に把握している…そんな感じだった。
「…すごいですね」
「うん…お互いに考えてることが分かるみたい」
すると、ふと影山くんが美里ちゃんに目線をやった。それに気が付いた美里ちゃんは、足元に置いてあったタオルとドリンクを持って影山くんの元へ近付いた。
「まじか…なんだあれ、すげえ」
「以心伝心かよ」
「マジで心読んでんじゃないスか!?」
──以心伝心
2人を言葉で表すならまさにそれ。
私は心の中で力強く頷いた。
「美里ちゃんと影山って、みんなが関係性を知ってからも何も変わらないじゃない?会話が増えたわけでもないし」
「はい、だから2人が幼なじみだってつい忘れちゃう時があります」
「でもこういう姿を見ると…やっぱり2人だけの特別な絆があるんだって気付かされる」
「すごくわかります…だけど、いくら以心伝心でも伝わらないこともあるんだなって」
「なあに?」
恋心とか…そう言おうとして口を隠した私に、清水先輩はまるで心を読んだかのようにシーッと指を立てて微笑んだ。