第22章 初めての東京遠征
坂ノ下商店のテーブルで、作戦ボードを囲み私たちは座っていた。
「…テンポ…ですか」
「…まあ俺も理論として頭に入ってるだけで全然応用できてなかった。お前らの速攻を特別と身構えすぎて根本的なことを忘れるとこだったんだ」
「…テンポは大体わかったんスけど、“止まるトス” ってなんですか?」
「いいか?まず──」
烏養コーチは口でマジックペンの蓋をキュポッと抜き取って、作戦ボードに書き込んだ。
「お前の変人速攻の時のトスはスパイカーの打点を通過するトスだ」
「…ハイ」
「でもそこを止めんだよ!打点のところで」
「??」
「あーっと、つまり…」
『スパイカーの最高打点にトスの最高到達点を持ってくる…ですか?』
「そう、それだよ!!」
「…………」
「今までみたいに勢いそのまま通り過ぎるんじゃなく、スパイカーの打点付近で勢いを──」
「殺す?」
飛雄の言葉を聞いて、ニッと笑った烏養コーチ。
「力加減と逆回転のかけ方の難しさは今までの比じゃねえ、それにBクイック、Dクイック、ブロード…距離が離れるだけ難易度は格段に上がっていく……できるか?」
「……やってみせます」
荷物を持って立ち上がった飛雄。
「おい帰るぞ。早速やる、付き合え」
『うん』
「お前ら家近いのか?あんまり遅くまでやるようなら鈴木を家まで…」
「大丈夫です、家同じなんで」
「家同じ?」
「お前、烏養さんに話してなかったのか?」
『烏養コーチには武田先生から話したって聞いたから、そこは言わないでいてくれたのかも…』
「えっ?どういうことだ…?」
「あの烏養さん、俺たち一緒に住んでます」
「なんだってェエエ工!?!」
奥から烏養コーチのお母さんが何事かと出てきた。私たちは、わたわたとするコーチに頭を下げて坂ノ下商店を後にした。
「………」
飛雄は早速脳内練習を始めたのか、手をクルクルと返してボールの回転をイメージしていた。
『どう、やれそう?』
「もしこのトスが日向の欲しいトスなら、俺はそれに応える努力をするしかねえ…出来るかは二の次だ」
『出来るよ、影山くんなら』
「………」
『だから、大丈夫』
「…おう」