第22章 初めての東京遠征
「!」
「…このできるかわかんねえ攻撃を繰り返すより、今までの攻撃とかサーブとかレシーブとか、他にやること山程あんだろうが!」
「でもおれは!この速攻が通用しなきゃコートにいる意味がなくなる…!」
「だから、この攻撃にお前の意思は必要ないって言ったんだ!俺がブロックに捕まんないトスを上げてやる!!」
「それじゃあおれは上手くなれないままだ!」
あっ、ちょっとマズイかも…
そう肌に感じるくらい、飛雄の纏う空気が一気に変わった気がした。
「……春高の一次予選は来月だ、すぐそこだ」
そう言って飛雄は日向くんに近付き、胸ぐらを掴みあげた。
「そんとき武器になんのは、完成された速攻と現時点で全く使えない速攻どっちだよ!?ああ!?」
飛雄の言う通りだと思った。闇雲に今のまま練習を続けてもまるで無意味だ。それなら磨くべきところは沢山ある。今回はそれに気付けた合宿でもあったはずだった。
「け、けんかはだめだよ…影山くん落ち着いて」
…なのに、胸ぐらを掴まれた日向くんは全く引く様子を見せなかった。
「おれは、自分で戦える強さが欲しい!」
Tシャツを掴み上げた飛雄の手をグッと掴み返して日向くんが叫んだ。
「ッ…てめえのわがままでチームのバランスが崩れるだろうがっ!」
「ぅわあっ!」
日向くんをグラングランと勢いよく揺すった飛雄は、ブチブチとTシャツの糸が切れる音をさせて思い切り投げ飛ばした。
『!』
涙目になりながら仁花ちゃんが何かを言っている。それが聞き取れないほどには私も動揺していた。だってこんな飛雄を見たのは初めてだったから。
すると飛雄は少しだけ長く息を吐いた。
「“勝ちに必要なヤツになら誰にだってトスは上げる” …今も変わりねえからな」
飛雄はそう言って日向くんに背を向けた。