第22章 初めての東京遠征
体育館を覗くと、飛雄と日向くんがネットを張っていた。
『なっ、何してるの!?』
「2人とも帰らないの?」
「…ねえ鈴木さん、ちょっとだけ球出ししてくれない?」
『合宿の後だよ?長時間のバス移動もあったし、身体が疲れてるんだから帰って休んだ方がいいよ』
「ちょっとだけだからさ」
『…ごめん、心配だし私は手伝えないや』
「そっか…じゃあ、谷地さん」
「ぇえ゙っ!?美里ちゃんどうしよう!?」
カタカタ震えながら私を見た仁花ちゃんに、私は折れざるを得なくなった。
『ん〜…わかった、ちょっとだけだからね!』
「サンキュー鈴木さん!」
「………」
飛雄の顔を見て、この自主練は飛雄発信ではないことがすぐに分かった。
『いくよ』
「ん」
私はボールを地面にバウンドさせてそれをアンダーで飛雄の頭上に上げた。
そして、いつも通りの飛雄の正確なトス。
「ふんッ!」
それを日向くんはスカッと空振った。
「『!?』」
…日向くん、もしかしてジャンプがいつもより低い?
「もう1回!」
その声に私は同じ動作を繰り返す。
そして寸分違わない位置へ上がった飛雄のトス、日向くんはそれをまたしても勢いよく空振った。
3度目も4度目も…何度も何度も。
ゼェゼェと肩で息をしながら、日向くんは「もう1回!」とまた叫んだ。1度もネットを越えずに日向くんの向こう側へ転がったたくさんのボール。
『………』
私は手に持ったボールをカゴの中に投げて戻した。
「鈴木さんなんで…!」
「おい」
飛雄の低い声が体育館に響いた。