第22章 初めての東京遠征
試合を見つめる飛雄、その隣に無言で並ぶ。
「………」
『………』
頼むと言われてつい返事をしてしまったけれど、かける言葉が見つからなかった。
飛雄はスパイカーの力を引き出すのはセッターだと分かったと言っていた。だからこそ、青城戦のあの攻撃を防がれたのは、自分の責任だと今も思っているはずだ。変わるのは日向くんではなく自分のほうだ、きっとそう感じているに違いない。
目も合わせずに無言のまま並んで立っている異様な空気感の私たちに、ほかの烏野メンバーがチラチラと様子を伺っている。私は試合から目を逸らさずに小さく口を開いた。
『…あんたってさ』
「……あ?」
『昔から言葉が足りないよね』
「………」
きっと中学でもそうだったのではないかと思う。バレーボールという究極のチームスポーツでのコミュニケーション不足、それがあの日の飛雄を1人にさせてしまったのではないかと。
さっきも日向くんの考えを真っ向から否定するばかりで、飛雄自身の思いは語らなかった。飛雄が何故その答えを出したのか、必ず理由はあったはずなのに。
色が変わるほどに握られた拳が、少し切ない。
だって…
飛雄は何も考えていないようで、実は頭では色々考えている人だと私は知っている。仲間に関心がないようでいて、実は意外とよく見ていることを私は知っている。そして…あの日のことが今もその心に深く傷として残っていることを、私はよく知っている。
こんなに、こんなに優しい人なのに…
『……誤解、されたくない』
私の言葉は試合終了のホイッスルと重なった。
「なんて言った?」
『ううん…なんでもない』
私はそう言って、腰のあたりにポンッと触れた。
──大丈夫、きっと上手くいく。
そんな想いと願いを込めて。