第22章 初めての東京遠征
影山 side
『はい、今日もお疲れさまでした』
「ありがとう」
手を離して立ち上がる美里に続いて俺も立ち上がった。
「やあ」
すると角から誰かの声がして目を向けると、そこにいたのは音駒の主将だった。
「ちわっす」
『こんばんは!黒尾さん…ですよね?』
「ちょっなんで!どう見ても俺でしょーが」
『すみません、髪型が違ったので』
「あー、風呂上がりなもんでね。どうよこっちの俺は」
『どちらも素敵だと思いますよ!』
「アハハ、また言わせちったな!ところでさ…こんなとこで何してたの?」
黒尾さんは目を細めて俺を見た。
俺はその瞬間に何となく察した。
あぁ見ていたのか、と。
『喉が渇いたので飲み物を買いに』
「セッターくんも?」
「ハイ」
「…ふうん、そうなんだ」
『黒尾さんもですか?』
「まあな」
『そうでしたか!……あっ』
美里が落とした未開封のアップルティーを黒尾さんが拾う。
「はいよ」
『すみません、どうもありがとうございます!…じゃあ私部屋に戻りますね、おやすみなさい』
「ん、おやすみな〜」
『影山くんもおやすみ』
「おやすみ」
黒尾さんは階段を上っていく美里を見送ってから小銭を自販機に入れた。そしてスポーツドリンクのボタンを押して、下から取り出す。
「あれ、おっかしいなあ」
「?」
「鈴木さんの飲み物が冷えてなかったから、自販機が壊れてたのかと思ったけど」
「………」
「…これ、ちゃんと冷えてるわ」
ジッと様子を伺うような目線。
「よかったスね」
「ウン、よかった」
わざとらしい笑顔を浮かべた黒尾さんはパキッとペットボトルの蓋を開けて口をつけた。
「じゃあ失礼します、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
俺は頭を下げてから背を向けた。背中に刺さる視線、それに気付かない振りをして部屋に向かう。
この視線の理由はなんだ。
単純な興味か、それともあいつへの好意か。
まあ別にどっちだろうが、俺たちは黒尾さんの考えているような関係ではない。
「………」
やっぱり変な顔して過ごしとけよ。
俺は頭を掻きながらため息を吐いた。