第22章 初めての東京遠征
教室を出て急いで自販機に向かうと、飛雄は既にそこにいた。私の足音に気が付いたのか、ベンチに座った飛雄はゆっくりと顔を上げる。
『影山くん、おまたせ!』
「ほらよ」
私は差し出されたノートを受け取って胸に抱いた。
『ありがとう、本当に助かりました!これどこにあった?』
「テーブルんとこ。わざと置いてったのか分かんなかったから一応持ってきた」
『あー…昨日勉強した時に置いたままだったのかも…さすが影山くんありがとう!お礼に飲み物を買わせて、何がいい?』
財布を開けて小銭を探していると、飛雄はまた何かを私に差し出した。
『えっ』
「いらねえのか?」
『も、もらう!…けどなんで?』
「ついで」
私がアップルティーを受け取ると、飛雄は自分のぐんぐんヨーグルにストローを差して立ち上がった。
『え、もう行っちゃうの?』
「あ?…まさか寂しいからまた一緒に寝てくれとか言うんじゃねえだろうな」
『はあっ!?』
素っ頓狂な声を上げた私を見て、ストローを咥えたままニッと口角を上げた飛雄。
『いっ、言わないし!…マネージャーみんな同じ部屋だもん』
「そーかよ」
『あ、待って!ねえ、せっかくだからちょっと話さない?ほらお礼も出来てないし』
私がそう言うと、飛雄は再びベンチに腰掛けた。
「お礼、何してくれんだよ」
『んー…じゃあマッサージ!』
私が背もたれのないベンチを跨ぐようにして座ると、飛雄も長い足をヒョイと上げてベンチを跨いだ。そして、右手を前に出す。
その手を取ると、紙パックについた水滴で少し濡れていた。いつものように手首、手のひら、指とマッサージを施していく。
『気持ちいい?』
「ん、いい」
『よかった』
やっぱり木兎さんの男らしい手とは全然違う。クリームで保湿してるからか爪の割れもささくれもないし、指も長くて本当に綺麗だ。思わず手を止めてジーッと眺めてしまう。
「…なんだよ」
『ううん、相変わらず女性みたいに繊細な指だなと思って』
「は?」
『褒めてるんだよ?木兎さんの指は太くてゴツゴツしてて男らしかったけど、影山くんのはスッと真っ直ぐですごく綺麗でさ』
「…嬉しくねえ」
『なんでよ!すごく羨ましいのに!』
褒めているのに何故か唇を尖らせる飛雄を見て私は笑った。