第4章 “頂の景色”
月島 side
こういう式典のパイプ椅子って何でもっと座りやすいように進化しないんだろ。小学校…いや、幼稚園の頃から何も変わってない気がするんだけど気のせい?
それと、前後の間隔狭すぎ。足がどう頑張っても前の人の後ろ側に侵入しちゃうんですけど。もしこれが原因で僕がヤバいやつ認定されたら一体誰がどう責任取ってくれるわけ。そもそもこれは誰基準の幅なんだよ、一遍これ決めたヤツと話をさせてくれよ。
「…はあ」
僕は小さくため息を吐いた。
次は新入生代表挨拶か。
…心底どうでもいい。
こういう挨拶って無駄に時間かけて話すより、紙の無駄だけどプリントにでもして配ったほうが見てくれる人は見てくれるんじゃないの?まあ僕は死んでも見ないけど。
「新入生代表1年4組 鈴木美里」
え?4組ってうちのクラスじゃん。
しかも鈴木って……まさか、
『はい』
耳馴染みの良いよく通る声で返事をし立ち上がったのは、やっぱり教室で話したばかりの頭が悪そうな女子だった。
うそだろ?
驚いて思わず声を出してしまいそうだったけど、どこかの誰かが僕の気持ちを代弁したかのような声を上げた。
だって新入生代表に選ばれる人は、入試でトップの成績を収めた人だと相場は決まっている。
もしもその相場通りだとすれば、ここにいる数え切れないほどの新入生の中で、彼女がトップの成績であったことの証明になる。
…語彙力ちいかわだったくせに、入試トップはさすがになにかの冗談デショ。ほんとに替え玉だったりして…いや、替え玉ならこんなとこじゃなくて白鳥沢行くよね、普通。
通路側へ出てステージへ歩きだした彼女は、凛とした雰囲気を纏いとても美しい歩き方をしていた。そして、ここからそう遠くない途中で知り合いを見つけたのか、微笑みながら僅かに舌を見せた。
ああいう仕草を自然に出来てしまう人と自分は全く別の星の生き物なのだろう。
…そう思うのに、
僕は彼女から目が離せなくなってしまっていた。