第21章 影に隠した秘密
月島 side
お互いの過去を知り尽くし、性格や趣味、思考までもが手に取るように分かる、最も安心感のある存在がその関係性だと僕は知っている。
こんなことなら、2人の関係がただの恋人同士ならどれだけ良かったかって。それなのにまさか幼なじみ以上の話だなんて、誰が想像できたんだ。
それに、
──「俺と美里はそういうのじゃありません」
──『…なに飛雄?』
名前を呼んでるところなんて出来れば聞きたくなかった。小さい子供みたいな喧嘩をする2人に安心しても、それさえをも掻き消す威力があったから。
「………」
水で食器の泡を流す影山の捲られたワイシャツの袖が落ちてきて、それを自然に捲ってあげた鈴木。2人の間に会話はない。
「まぁなんとなく何があったのかは想像つくが、名前で呼び合うのも、あーいうのも…あいつらにとっては何ら特別なことじゃない。ただの日常なんだけどな」
影山のお父さんが言うように、この家には2人のああいう “日常” の触れ合いが多く潜んでいるのだろう。特別じゃない、それは兄妹みたいなもんだと思っても、甘いはずのケーキはほんの少しだけ苦く感じられた。
「そうなんでしょうね」
「まぁひとつ言えるのは、同じ家に住んでるのは別にあいつらが望んだからじゃねえ、親である俺たちのわがままだ。…だからどうかこれからも変わらずに接してやってよ」
「はい、もちろんです。2人のこと、今日で色々理解したつもりですから」
「それに、幼なじみだろうが同じ家に住んでようが俺たちの仲間であることには変わりないっスからね!」
「…そうか、良い仲間に恵まれたみたいで親としても安心だ!よろしく頼むな」
「はい!」
王様たちがテーブルに戻ってきた。
「2人ともありがとう」
『いえいえ!』
「なあ…父さん、余計なこと話してないよな?」
「あ?ただ楽しくおしゃべりしてただけだ」
「わっホントだ!…影山と影山のお父さん超似てる!」
『でしょ!?』
「うん!顔と話し方!」
「俺こんなに口悪くねえよ」
「影山、まじで言ってる?」
「あ?」
「ヒィ!」
『あはは!』
盛り上がる日向と鈴木。せめて幼なじみなのがこの2人だったならなんて随分弱気なことを考えながら、僕は最後の一口を口に運んだ。