第21章 影に隠した秘密
ついに木曜日。
私はランニングに行った飛雄を庭で待っていた。2軒分の敷地が繋がる我が家の庭はコートの縦半分より少し短いくらいの広さがあった。ボールが飛んでいかないように塀の部分には高く網が張られている。
昔、お兄ちゃんとお姉ちゃんの為に一与さんとお父さんたちが張ったネット。今はそれを飛雄がほぼ毎日使っていた。
『2m40cmか…』
この高さのバレーネットで活躍する飛雄を一与さんは見ることが出来なかった。…次にお線香を焚いたときにはいっぱいその様子をイメージして伝えてあげなくちゃ、飛雄はすごいんだよって。
「なにしてんだ?」
『あっ、おかえり』
「ただいま」
『そろそろ帰るかなと思って待ってた』
「あぁ」
『対人パス?』
「いや、打ちてえ」
『わかった』
普段は飛雄のトス練習のために私がスパイクを打つことのほうが多いけど、今日はどうやらスパイクの気分らしい。
私はネット際に立って、少し後ろに下がった飛雄にスパイクを打った。それを見事に私の真上に返した飛雄は、上がったトスを見ながら地面を鳴らして助走をきった。
高く飛び上がった飛雄はバシンッといい音を立ててスパイクを放った。チラリと何か言いたげに見る飛雄。
「『トス低い』」
「…んだよ、自覚あんのかよ」
『ごめん、上げてからやばってなった。でも飛雄どんどん打点が高くなるから、せっかく慣れても合わない』
「合わせに来いよ」
『あのね、私はあんたと違って人に合わせてトスを上げるなんて技術はないの。これくらいって高さにこんな感じってトス上げることしか出来ないの』
「お前なら出来る」
『スパルタ上司か』
「美里、ちょっとトスのフォーム作れ」
『…こう?』
すると飛雄は私の後ろに回り込んで私の腕を掴んだ。
「上げる瞬間に肘はこれくらい開いてて良い、バックトスはもっと開くと上げやすくなる」
『わ、そうなんだ!開いちゃダメなもんだと思ってた』
「開きすぎも良くねえけど、これくらいならやりやすい」
『わかった、ありがとう!』
それから何本かスパイクを打って、私たちは学校へ行く準備を始めた。今日は放課後、私は審判講習会のために仙台市総合運動公園に行くことになっている。
飛雄のサポートのために頑張ろうと気合を入れてほっぺをぱちんっと叩いた。