第20章 されど空の青さを知る
影山 side
あのあといつもの場所に並んで、夕焼けが街を飲み込んでいくのを見た。
頼ってもらえなかったことが悲しかった、そう言って眉毛を下げるこいつには開いた口が塞がらなかった。だって誰が思うんだ、勉強を教えてもらうことがあんな顔で泣くほど重要な “頼る” だったなんて。
これまで俺が助けてくれと言葉にしなくたって、美里には何度も支えられてきた。だから美里には俺を助けてる自覚が全くないのだと今回初めて知った。
お前が思ってる以上に俺は…
お前の言葉に、お前の存在に、
──「いつも、すげえ助けられてる」
まん丸にした美里の目が細められて、あまりに嬉しそうに笑うから俺はその腫れた目に手のひらをあてて隠した。
『わっ』
「お前さ、あんまりバカみてえな理由で泣くなよ。びっくりする」
『なっ…ひどい!私は本気で悲しかったんだからね!』
「それと、…泣く時は俺の前で泣けよ」
『なんで?』
「なんでも」
『…善処する』
「ゼンショ?」
『改善できるように努力します、みたいな』
「…ふーん」
普通に話してる時は目が合ってもなんともねえのに、なんで並んで勉強してる時はダメだったんだ?
『そういえば飛雄、寒くないの?』
「さみい」
『わっ、だよね!?早く帰ろっか』
「おう」
『すぐお風呂入ってよね』
「ん」
『あっ………飛雄、』
「なんだ?」
『昨日はごめんなさい…それとさっきはありがとう。また助けられちゃった』
「…邪魔したかと思ったろ」
『そんなわけないじゃん!……はい』
そう言いながら差し出された手、俺が迷わず握ると美里は笑いながら上下に振った。
『なっかなっおり!』
それは子供の頃に俺たちがよくやった動きだった。
小さな手をキュッと握りながら、さっきの美里の言葉を思い出す。
──『…私ね、何か困ったことがあると1番に飛雄の顔が頭に浮かぶの』
──『飛雄ならきっと私を助けてくれるってわかってるからかな』
それがずっと変わらなければいい。
ずっと俺だけを頼ればいい。
お前の弱い部分は俺だけが知っていたい。
「…お前、変わんねえな」
『そ?』
それは、そうであってほしいという、
俺の願望。