第20章 されど空の青さを知る
「チッ……はぁ、あともう少しで鈴木が俺のものになってたかもしれないのに…とんだ邪魔が入った」
「邪魔じゃねえってこいつは言ってるぞ」
「鈴木、あの日からようやく俺のことを男として意識し始めたんだよ。今日も会った瞬間顔赤くしちゃってさ…可愛かったんだよね、鈴木?」
「お前の勘違いだろ」
「やっぱりあの日、抱きしめるだけじゃなくて…キスもしちゃえばよかったかな」
「………あ?」
『国見くん!』
「…なに?影山には知られたくなかった?」
『なに、言ってんの…そんなんじゃ』
…国見くんの言う通りかもしれない。
あの日の出来事を、何故か飛雄にだけは知られたくない。
そんなこと言えるわけもなく、私はただ俯いていた。
「そしたら鈴木は今よりもっと俺を意識して…今頃は俺のものになってたかもしれないよね?」
「国見」
「なんだよ」
「お前、みっともないな」
「はあっ!?どういう意味だよ!」
「別に、そう思ったから言っただけだ」
「クソ…ッなんとでも言えよ、俺は鈴木を諦める気はないからな」
「そんなん勝手にしろ……ただ国見、」
「あ?」
「“美里” を傷つけたら許さねえぞ」
「!」
舌打ちをして立ち上がった国見くんは、飛雄を睨みつけて去っていった。
『…影山くん、あの』
すると飛雄はズイッと私の目を見た。
「……」
『影山くん?』
「もう泣いてねえな?」
『…え?あ、うん』
「よかった」
『……わ、』
少し乱暴に私の目を親指で擦る飛雄。
「……寄ってく」
そう言いながら立ち上がって、飛雄は神社の正面へと歩き出した。
着替えを持っていなさそうな飛雄が汗で風邪をひいてしまわないかすごく気がかりだったけれど、帰ろうという言葉を聞いてくれなさそうな雰囲気に、私は黙って後に続いた。
鈴木さんを探しにきた、
確かに飛雄はそう言った。
あんなに息を荒くして、汗を流して。
──「美里を傷つけたら許さねえぞ」
飛雄の言葉が、頭をぐるぐると駆け巡っていた。
『………っ、』
ズキズキと痛んでいたはずの心が、何故か今は温かさを感じていた。