第20章 されど空の青さを知る
──「……キス、してみない?今ここで」
最初、聞き間違いかと思った。
でも、国見くんとの近すぎる距離は普通に会話をするような物ではなくなっていて、私の耳が間違っていなかったのだとわかった。
反応も反論もしない私をじっと見つめる国見くんはあの時の及川さんと同じような目をしていて、今すぐ何かを言わなければまずいことになると脳が警告を発していた。でも喉はただ空気を吐き出すだけで声になってくれない。
それでもだめだという意思を伝えるために私は首を振る。国見くんはそれを見て縋るようにこう言った。
「鈴木おねがい…俺のものになってよ」
『…やだ…だめ、国見くん…っ』
ようやく思いが言葉になって現れたその時、国見くんのさらに向こう側から誰かの足音が聞こえてきて、突然白い何かが私の視界に広がった。
『わ……!?』
「なっ…!?」
「…っはあ、はっ…あ……ッ」
目線だけで体の両サイドを見ると、誰かの両腕が私のすぐ後ろの背もたれを掴んで覆い被さっていた。
頭上から聞こえる荒い呼吸に交じる声。
ふわっと香るこの匂い。
『……とびお?』
名前を呼びながら上を向くと、睨みつけるような鋭い視線に捕まった。ぽたぽたと汗が私の顔に落ちてくる。目が離せないまま見上げていると、飛雄の唇を伝って流れた汗が私の唇に滴ってきて、それを無意識に舐めてしまった。
『……しょっぱい』
私がそう言うと、飛雄はギュッと目を瞑り大きなため息をついて私の肩におでこを乗せた。
「……ッ、」
『飛雄…だいじょうぶ?』
「…あ゙ぁ゙ー…っ…」
低い唸り声を上げた飛雄は、そのまま私の横に滑り落ちるように座った。