第20章 されど空の青さを知る
『…ただいま』
静かだ、また誰もいない。
この前と同じ状況なはずなのに、1人というだけで何もかもが違って見えた。手を洗い、ダイニングテーブルに突っ伏してため息をつく。
1人だと何かを作って食べる気にもなれなくて、ずっと座ったままボーッとしていた。キッチンの窓から見える陽の光が徐々に傾いて、時間の経過を感じさせる。
『………』
おもむろにスマホを取り出して時間を確認すると、家に帰ってから3時間も経っていた。
そして自然な流れでLINEを開く。
“影山飛雄” には未読のメッセージが残ったまま。
心配になるから、と返事をしないことを嫌がる飛雄。
既読をつけないことがささやかな抵抗だった。
子供じみてる、バカみたい。
そんなことは分かっているのに、何故か痛み続けるこの心がそれをやめさせてくれなかった。
飛雄と仲直りが出来なかった、
機会を逃してしまった、それだけ。
…ただそれだけのはずなのに。
『……いたい、』
心臓か鳩尾か、心は確実にこの辺りにあるのだろう。ズクッという鈍い痛みが度々襲ってくる。
…またこの痛みだ。この痛みはよく知ってる。でも原因が分からない。私にはそれが怖くてたまらなかった。
これまで喧嘩をしてもこんな風に胸が痛むことはなかったのに。
無意識にパタパタと涙がこぼれ落ちる。
私はテーブルに落ちたその雫を、まるで他人事のように見ていた。
ガチャッ
玄関の鍵が開く音が聞こえた。
リビングに顔を見せたのは、飛雄のパパだった。