第19章 能ある烏は翼を隠す
烏養 side
「……ふー…」
口から吐いた煙がすっかり暗くなった空に消えていく。練習が終わり外で一服しても、頭の中は練習前に見た光景でいっぱいだった。
──すげえもんを見た。
ソレで胸が満たされているような感覚。影山のサーブを完璧に上げた鈴木に、何故か影山はネットをくぐってそのままトスを上げた。そのトスを迷わず打った鈴木も、トスを上げた影山も目をキラキラと輝かせて、楽しくて仕方がないという表情を見せた。
「…影山のあんな顔を見られるなんてな」
「お疲れ様です、烏養くん」
「おー、先生今日は随分と顔出すのが遅かったじゃねえか」
「………」
「先生?」
「僕は今とても悩んでいます」
「何をだよ」
「……鈴木さんのことです」
「鈴木?」
「いつも笑顔を絶やさない鈴木さんの、あんなに輝いた笑顔を見たのは今日が初めてだったかもしれません」
「……先生、もしかして」
「はい、みなさん鈴木さんに注目していたので気付かれなかったのですが、実は僕も体育館の外から “アレ” を見ていました」
「そうだったのか」
「…烏養くんは前に僕に言いましたよね、“鈴木さんの力があの子たちの力にもなるんじゃないか” と」
「あぁ」
「その意味が、僕にも分かった気がします」
「!…そうか」
「影山くん…元々バレーが好きだということに間違いはないのでしょうが、鈴木さんとするバレーはまた別の楽しさがあるように見えましたね」
「…ああ、あの自分のバレーに絶対的プライドを持つ影山にさえも影響を与えていることには驚いた。相乗効果、或いは切磋琢磨か…鈴木にまだこんな力が隠されていたなんてな」
「烏養くん、僕は決めました」
「ん?」
「…明日」
「明日、がなんだ?」
「明日、鈴木さんと話をします」
「先生…」
「烏養くんの目に狂いはない…もちろんそれは知っていましたが、今日改めて感じました。キミがあの子たちを“頂”に導くために人事を尽くすのならば、そのキミのサポートは僕の役目です。全力を尽くしますよ」
「…ははっ、頼りにしてるよ先生」
「僕もです、烏養くん」