第19章 能ある烏は翼を隠す
烏養 side
ぞろぞろと体育館に入る女バレ連中。
俺たちはサイドライン側からコートの中の鈴木を見た。
「…コーチ、もしかして楽しんでます?」
「あ、バレた?」
澤村にそう言われ、ガハハと笑った。
だが、鈴木に対する評価に嘘はない。
球技大会の動画を観て、俺はいよいよ武田先生に鈴木の練習参加を認めてもらわねばと決心した。マネージャーとして優れた才能を遺憾無く発揮し続ける鈴木。そいつがこの頭脳と運動神経を駆使して練習までをもサポート出来るようになれば…言うまでもなくそれは最強のマネージャーだ。そしてそうなれば、間違いなくチームの転機となる。
青城の監督や猫又監督もそうだった。鈴木のことを知ったヤツは皆羨み、ファンになり、そして手に入れたがる。それはこれから先もきっとそうだろう…ただ俺は、俺たちは、誰にどう頼まれようが鈴木を手放すことはしてはならないとわかっている。なぜなら鈴木を敵に回すことの惜しさと恐ろしさは、俺たちが一番よく知っているのだから。
「………」
俺は鈴木のサーブを見たあの日から、早くそれを目の前で見てみたいと待ち望んでいた。あの小さな体からどうやってあれだけの威力を叩き出すのか、そしてそのサーブは一体どこまで通用するのか。
さあ…一般的な女子相手ならどうだ。
「コーチ、ネット下げますか?」
「ネット?」
「女子のネットはこれより低いんで」
「お、確かにそうだな」
ポールの調整に向かった澤村たちを見て、俺はある事実に気がついた。
そうか…鈴木はあの日、
この高さのネットであのサーブを。
「…っくく」
鈴木、お前顔に似合わず本当に恐ろしい女だな。