第19章 能ある烏は翼を隠す
影山 side
──「お前、バレーで攻撃してないんだって?」
──『…うん』
──「なんでだよ」
──『私が今まで誰とバレーしてきたと思ってんの?もし相手に怖い思いをさせて、その子がバレー嫌いになっちゃったら可哀想でしょ』
──「…そうか?」
──『それに…“ツッキーと山口くんがいるから男バレのマネになった、バレーも知らない動機不純女” なんだよ、私』
──「は?」
──『女子バレー部の人にそう噂されてた』
──「だからなんだよ…そんなん関係ねーだろ」
──『…別に、今さらバレー経験者って知られたら変に思われるから、その方が都合が良いって話』
俺は審判台から降りて、ボールの当たった女子の元へ行く。
「…大丈夫スか?」
「あっ…うん、大丈夫です…ありがとう」
「…ッス」
この女子は今のでバレーが嫌いになったのだろうか。
…なんかそれは嫌だな。バレーすげえ楽しいのに、誰かがそれを嫌いになるなんて。
気付いたら俺は戻りかけていた体を向き直して、口を開いていた。
「あの、」
「…はい?」
「バレー、すげえ面白いんで…嫌いにならないでください」
「えっ…」
「それと、試合はたぶんこい…この人が、何とかしてくれると思うんで」
「……鈴木さんが?」
そして俺は、ネットの向こう側を睨みつける美里の近くで足を止める。
「おいお前、このまま負けんのか」
『……』
「本気出してませんって、負けた時の言い訳にでもするつもりかよダッセェな」
『……』
「噂なんか気にすんじゃねえ、んなモン勝手に言わしとけ。でもな、俺はお前がバレーのことなんも知らないみたいに言われてんの、
すげえ腹立ってっかんな」
『……っ』
俺はそれだけ言って審判台に戻った。
3組 9-7 4組
3組のマッチポイント。