第19章 能ある烏は翼を隠す
月島 side
どの瞬間からからだろう、鈴木の雰囲気が変わった気がする。いつもなら喜怒哀楽がわかりやすいタイプなのに、今の鈴木からはそれら全てが抜け落ちているかのようだ。普段は愛嬌のある目も、今はからっぽのガラス玉みたい。
「後から入った子、しっかり攻撃してくんじゃん」
「ほんとッスね」
「なんか…鈴木以外のところを狙って打ってるっぽいのがまたイヤらしいというかなんというか…」
「あっ!」
「おいまじか!?」
例の女子が助走をつけて踏み切ったかと思うと、リベロが上げたアンダートスをそのまま強く打ち下ろした。その球は案野さん目掛けて飛んでいく。
「っきゃ!」
案野さんはとっさに顔を庇い、腕に弾かれたボールは審判台まで飛んで行った。
…今の、結構強めのスパイクじゃなかった?
「案野さん!」
「大丈夫!?」
「う、うん…びっくりした…」
「あ、ごめんね〜!つい癖で…わざとじゃないからっ!」
「……うん、平気…だよ」
『…………』
「……えっ、」
鈴木の顔を見て思わず声が出た。
ついさっきまで感情を無くしていた鈴木の目が、怒り一色に染まりただ真っ直ぐに例の女子を見つめていたから。