第19章 能ある烏は翼を隠す
影山 side
「杵島!」
「はい」
「あんた初心者相手にスパイクなんて…何やってんのよ!」
「す、すみません」
「大丈夫だった?痛かったよね…うちの後輩が本当にごめんなさい」
バレー部の先輩らしき数人が、4組に謝った。
「あんたはコートから出な」
「えっ」
「ずっと見てたけど、あんたがしてるのは球技大会のサポートじゃないよ!早く出て」
「……」
『あの、先輩…大丈夫です』
「あ、鈴木さん…でも」
『大丈夫です』
笑って大丈夫と言った美里は杵島さんに体を向けた。
『キジマさん、あなたが怒っているのは私に対してだよね?』
「…は?怒ってなんか、」
『もう全部わかってるからそういうのいいよ。それで、キジマさんはどうして私を狙わないの?』
「………」
『あっ…そっか、狙わないんじゃなくて狙えないのかな?ごめんごめん、狙うのにも技術がいるもんね』
敢えて煽るような口調で淡々とそう言った美里。こいつが他人にこんなことを言ってるのは初めて聞いた気がする。
「ねえ影山くん、鈴木さんが喧嘩売ってくる!」
『キジマさん!』
「なに」
『…勘違いしないでね、あなたに売られた喧嘩を私が買ったんだよ』
美里の言葉に一瞬静まり返った外野は妙な盛り上がりを見せた。もちろんうちの先輩たちも例外ではない。
そして美里はメンバーを集めて何かを話した。
「おっけー!」
「それなら出来ると思う」
「がんばる!」
『うん、ありがとう!がんばろうね』
そして美里は俺に目線を寄越した。
『勝ったら言い訳なんかいらないよね』
「……おう」
『それとね……私も今、
“すげえ腹立ってっかんな” 』
「フッ、」
俺の言葉をまんま使いやがった美里に思わず吹き出す。
3組のサーブ権で、試合が再開された。