第18章 フラストレーション
『ちょ、動きにくいから手加減を…』
「手加減したら練習になんねえだろーが」
『まって、これ私の練習なの!?』
「どっちもだよ」
この対人レシーブは小さな頃から数え切れないほどやってきた。最初こそお互いに上手く飛ばせなかったり返せなかったりしていたが、今はもうお互いの球なら体の真上に返せるようになっていた。中学の時に飛雄は、チームメイトと対人レシーブが上手くいかないと言っていたこともあったので、相性というか、慣れは大きいのだと思う。
今度は飛雄が私にふわりとしたトスを上げた。
私はそれを飛雄目掛けて打ち込む。
「日向より全然いい」
『それ、絶対日向くんに言わないでよ』
「言わねえよ」
しばらく続けると、飛雄は私が上げたトスを突然焦燥感に襲われたかのように壁に向かって強打した。バシンッと強い音を立てて跳ね返ったボールは私の髪を掠めて抜けていった。
『フラストレーションですか』
「あ?なんだそれ」
『欲求が何かに阻止されて、満足出来ない状態になってること…まぁ簡単に言うと欲求不満』
「……次、サーブ」
飛雄はボールケースを転がしながら、ネットの向こうを指さした。私が大人しくネットをくぐると、やたら高いサーブトスを上げた。勢いよく放たれたそのボールは、体育館のステージの奥の方に飛んでいった。ホームランだ。
『ねえ、それ及川さんのサーブ?』
「…っせえな」
『及川さんのサーブね、もっとこう…弓みたいに体がしなるの…ちょっとやってみていい?』
「は?」
私は撮影をした及川さんのサーブ動画を頭に思い浮かべた。何度も何度も見たそれを自分の身体に当てはめていく。
そして、高めのサーブトスを上げる。
エンドラインでの踏み切り、体のしなり…
バゴッ
『ごめ、トス失敗…』
「ボギャッ!」
「『!?』」
私の放ったサーブは、突然体育館に入ってきた日向くんの頭に激突した。妙な声を上げて倒れ込む日向くん。
ど、どうしよう…!
頭当たっちゃった……!
『〜〜っ!!』
すぐに謝りたいけど、私が飛雄と2人でバレーしてたなんてバレたらさすがにまずい。
焦って飛雄を見ると、向こうも動揺してドアの外を指さしたので私は急いで外に出た。