第17章 IH予選 2日目
大皿の料理が空っぽになるまで、誰も口を開かなかった。
「今食ったもんが、お前らの血となり肉となる…それは敗北も一緒だ。悔しさや苦しさを食ったチームはさらに強くなる、一回りも二回りも……だからお前らはこれからもっと強くなる」
コーチの言葉に、みんなは顔を上げた。
きっと俯いているのは私だけ。
「…おい、鈴木さん」
鼻声の飛雄が突然私に声をかけた。顔を上げると、目の周りを真っ赤にした飛雄と目が合う。
「今日のスコア」
『………うん』
私は後ろに置いていた自分のカバンからバインダーを取り出す。そして、飛雄に渡すためにバインダーから外そうとしてあることに気付く。
『!』
だめだ、このスコアは見せられない。なぜならそのスコアは、私の涙でボールペンのインクが滲んでしまっているから。これを見られたら、私が泣いていたことがバレてしまう。
「…おい、早く見せろよ」
ハッと飛雄を見ると、飛雄の目は私の手元のスコアではなく私の目を見つめていた。何なのその目は、やめてよ。
すると飛雄は立ち上がってこちらに近付いてきた。
「………」
『ご、ごめん…影山くん!今日わたし、試合に集中しすぎちゃってスコアを書けなくて…だから、あの、まって…!』
「おい…影山」
「か、影山…!」
飛雄は私の手からいとも簡単にバインダーを奪い取った。そしてスッとスコアに目をやると、またすぐに私を見る。
「…やっぱりな」
そう言ってそれを私の隣にいたコーチに手渡した。そしてコーチも一目見てまた隣へ、その隣もまた隣へ…どんどんスコアが回されていく。
『…や、めてよ』
私は体育座りをして、顔を覆った。
「……鈴木」
きっとみんなに見られてしまったのだろう…澤村先輩が私の名前を呼んだ。
『………』
「ありがとう」
澤村先輩の言葉に顔を上げる。すると、みんなが私のことを見ていた。
「ひとりでずっと心細かったよな、それでも俺たちと一緒に戦ってくれて、チームでいてくれて…ありがとう」