第2章 白鳥沢受けることにした
影山 side
昔から2人の結婚式にはどうとか、美里を嫁にもらったらどうとかそんな冗談話を散々俺たちにしてきたくせに、その時はやたらと真面目な顔をするから気まずくて目を見れなかった記憶がある。
好きだと思う、そう答えた俺に一与さんは「その“思う”が確信に変わる日がきたら、その時は絶対に美里のことを手放しちゃだめだよ」と言った。綺麗な美里をひとたび手放せば、きっと誰かの鳥かごの中に閉じこめられちゃうから、と。
「じいちゃん…俺、美里のことが好きだ」
もう覚えてもいないくらい前からずっと好きだったと思うけど、それが今日確信に変わった。
あいつの泣き顔を見たとき、どうしようもなく抱き締めたくなった。力を入れたら簡単に折れそうで、壊してしまうと分かっているのにあの瞬間、俺だけのものにしたくなった。そんなバカみたいな感情が一気に心の奥の方からドバァッと湧き上がって、あの場ではその感情を抑えることに精一杯だった。
中学最後の試合の日、夕方の神社で抱き締めた。
あの時は、こんなこと微塵も思わなかったし、思ってたよりもちっせーなとかほっせーなとかいい匂いすんなとかそれくらいのものだったはずだ。
自分にもこんな恋愛ドラマみたいな感情があるのだと知った時には、驚きと同時に怖くもなった。
あいつの髪が好きだ。
あいつの横顔が好きだ。
あいつの声が好きだ。
あいつの目が好きだ。
あいつの口もとが好きだ。
そして俺は、あいつの涙に弱い。
手放しちゃだめだと言われても、手に入れていたことすらない。そんな方法を知りもしない俺がこの幼なじみを手放さない方法はひとつしかない。
このまま“ただの幼なじみ”でいること。
別に普通に過ごしていれば、今日みたいな感情が呼び起こされることもないだろう。これまでだって、俺の好意は伝わったこともないわけだ。
だからこのままでいい。
このまま、いつも通り、
点が続いて線になっていけばそれで。
「うわぁー!やっぱりか!!」
「もったいなーい!!」
「…ん?」
突然隣のリビングで父と母の声がしたかと思うと、襖が開く。
「飛雄、美里って何が好き」
「…なんで」
「いいから」
「肉まん?」
「はい、これで、今すぐ!」