第16章 IH予選 初日
荷物置き場に戻る途中、廊下で泣き崩れる選手を数え切れないほど見た。試合をする以上、そこには勝者か敗者しか存在しない。そして最終日には、トーナメントのてっぺん以外全員もれなく敗者だ。
『………』
廊下のトーナメント表の前で立ち止まり眺めていると、遠くから名前を呼ばれた。
「おっ!鈴木〜!」
『旭先輩!お疲れ様です、やりましたね!』
「うん、鈴木のおかげだよ」
『何を言ってるんですか、それは旭先輩が…』
「試合前に言ってくれただろ、俺は弱くなんかないって。俺は昔から自分が弱っちい人間だと思ってたんだ。だから正直、すぐに心が折れる自分にも失望したことがない…あの日トスを呼べなかったのは自分が弱いからだって、納得さえしてた」
『……』
「でも、鈴木は言ってくれた。エースとは望んでなるものではなくて、全員に認められた人がそう呼ばれるんだ、そんなに認められる人が弱いわけがないって。…俺さ、自分が本当に弱くないのかは分からないんだ。でも試合中、鈴木が言ってくれた、信じてくれた… “弱くない俺” でありたいって思ったんだよ」
『旭先輩…』
「だから、ありがとうな」
『っ…こちらこそありがとうございます。私の言葉を信じてくれて…力にしてくれて』
「はは、お前の存在は心強いよ」
私の肩にポンと手を置く旭先輩。
「お、おいあれ、烏野のアズマネ…」
「きょ、恐喝!?」
「あの子助けた方が良くね?」
「…わ、わぁ…俺また言われてる…もうやだ」
明らかにしょんぼりとした旭先輩の背中を私はパシンッと叩く。
『さぁ旭先輩、ユニフォームのままだと冷えますよ!早く着替えに行きましょう!』
「はっ…はい!」
そのまま背中を押しながら、他校生を振り返ると不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。