第16章 IH予選 初日
みんなが着替えはじめた横で、私は作戦ボードや救急箱のチェックを行っていた。
「お、おい影山!」
「あ?」
「お前よく鈴木さんの目の前で堂々と裸になれんな」
日向くんのその声に顔を上げると、上半身裸の飛雄と一瞬目が合った。
「なんで?」
「いや、なんか…恥ずかしいじゃん!」
「?」
「そういえば鈴木、前に王様の上裸見た時も何も反応してなかったよね」
『え、そんなタイミングあったっけ?』
「体育着取り違え事件」
『あの時、着てなかったんだっけ?』
「いちいち覚えてねえ」
「もしかして、男の裸見慣れてるとか?」
『…うーん、そうかも』
「「「はぁっ!?」」」
『えっ…?』
「お、男の裸見慣れてるって…鈴木」
「まてまて、知りたくない事実!」
「うわあぁああ!嘘だと言ってくれ!」
『えっ!?あ、違います!そういうのじゃ…っ』
そういうの、と自分で言っておいて顔が赤くなる。私はただ、兄や飛雄の着替えるところを小さな頃から見てきたし、とりわけ向こうも恥ずかしそうにしたことはなかったから気にもしていなかっただけなのに。
否定すればするほど墓穴を掘りそうなこの空気。するとそんな空気を察した潔子先輩が口を開いた。
「美里ちゃん、お兄さんいるんだもんね?」
『!』
「え、そうなの?」
「初耳なんだけど」
「男兄弟がいれば、着替えくらい見慣れてるよね?」
き、潔子先輩〜っ!!!
『はいそうですそれです!兄の着替えで見慣れていて!だから日向くん気にしないで!どんどん脱いで大丈夫だよっ!』
「どんどん脱いでって」
「そっかぁ…たしかに夏の前なら恥ずかしくないもんな」
「………」
私の先程の失言に対して、呆れたように冷ややかな目を向ける飛雄。
『…もう、うるさいなぁっ!』
「僕何も言ってないけど」
「うるさいツッキー!」
「…月島と山口が融合してる」
潔子先輩に小さく頭を下げると、微笑んでくれた。
私は手の甲を頬にあてて、準備の続きに戻った。