第2章 白鳥沢受けることにした
「おいおい、受験料のことを言ってるのか?勘弁してくれよ、うちは子供に心配されるような経済状況ではありません」
『…お金もだけど、それなら最初から公立に絞れって言われちゃうのかなと思って』
「いいか美里、よく聞け。人生は選択肢があるからこそ悩むんだ。そしてその選択肢は多ければ多いほうが幸せだ」
『悩むのは辛いことなのに、幸せなの?』
「ああ。悩むということは、考えることでもある。考えることで知れることもある。選択肢が多ければ多いほど、色んなことに悩むし、新たな発見もあるんだよ」
『…うん』
「もし俺が今回、結果はこうなるはずだから公立にしておけ、と言えばきっとお前はそれに従い、今こうして悩むこともなかったはずだ。そして、今後今の感情を知ることはできなかっただろう。美里が今回、どうして白鳥沢に入学できないと思ったのか、そんなことを考える機会もなく通り過ぎてしまっただろうからね」
『私が、入学できない理由…』
「それは今、お前が答えを出せたんだろ?」
幼なじみと離れるのが寂しいからというのは、この場合の答えにしてしまって良いものなのだろうか。それさえも見透かしたように父は口を開いた。
「美里、どんな理由であれ、お前が納得できたならそれが正当な理由でいいんだよ」
『…お父さん』
「あんた三者面談のとき、白鳥沢からの推薦を辞退するって言ったでしょ?考えなしに推薦辞退する娘じゃないことは私たちが一番よく知ってるんだから」
私立の推薦を受けて入試に合格した場合、そのあとの入学辞退は認められていない。だから私の話に驚いて椅子から転げ落ちた進路担当を必死に説得した。
「私はそれが、美里自身が生み出した選択肢のひとつだったんだと思うな」
「その通りだよ。今の美里が持つ選択肢は、全て自分で生み出してきたものなんだ。勉強だって料理だって、きっと将来の選択肢に繋がってる。選択肢を持つことができなかった人は、迷う権利すらない。これは今のお前には難しいと思うけれど、いずれ大人になったらわかることだ」
『はい』
「最後にこれだけは覚えておきなさい
どこでやるかではない、
そこで誰と何をするかが大切なんだよ」
父と母の表情で、私の考えを全て理解した上で受け入れてくれたのだとわかった。
『…ありがとう』