第16章 IH予選 初日
影山 side
次の日の早朝、俺がランニングから戻って部屋へ戻ると美里が俺のカバンの前にしゃがみ込んでじっとしていた。
何してんだ、そう声を掛けようと回り込むと、美里は俺のユニフォームに額をつけて目を瞑っていた。そして俺の存在に気付いたのか、パッと顔を上げる。
『あっ、飛雄…』
「お前、鼻水つけんなよ」
『はっ!?付けてないし!』
「何してたんだ?」
『…おまじない。私は試合中近くにいられないから、代わりに気持ちをここに込めておこうと思って』
「………」
マネージャーはひとりしかベンチに入れない、昨日の夜いつものように俺の手をマッサージしながら、美里はほんの少しだけ寂しそうに話していた。
「お前言ったよな、一緒に戦うって」
『…うん』
「なら距離なんか関係ねえだろ」
『…じゃあ、もし飛雄が苦しくなったとき、私も一緒に戦ってること、ちゃんと思い出してくれる?』
「思い出すもなにも、忘れねえよ」
俺がそう言うと美里は少し驚いたように笑って、俺のユニフォームを一度胸に抱いてからカバンに戻した。
俺たちが同じジャージを着て、玄関で靴を履いていると後ろから父さんに背中を叩かれる。
「飛雄、試合頑張ってこいよ」
「ん、」
「美里は堂々と飛雄の試合が観られるようになって良かったな!」
「……あ、そうかお前ずっと不審者だったんだもんな」
『う、うるさいな!パパもからかわないで!』
「ッハハ」
「じゃ」
「『行ってきます』」
「おう、行ってこい。気をつけてな」