第15章 そして、走りだす
月島 side
『学校の勉強は先生がいて授業があってテストがあるから、自分の分からないことを明確に出来るけど、恋愛は先生もいないし授業もテストもないから難しくて…』
「えーっ!じゃあ鈴木さん、好きな人は?」
案野さんの声に、クラス中が耳を傾けているのがわかった。鈴木に好きな人がいるのかどうなのか、みんな知りたいんだろうな。もちろん僕だって例外じゃない。次の言葉をみんなが待っていた。
『私、出来たことないんだ、好きな人』
「………え、高校で?」
『ううん、人生で。…人を好きになるってどういうことなのか、いつどんなときにそうなるのか、そうなるとどうなってしまうのか…全くわからないんだよね』
そう答えた鈴木の顔は真剣で、答えをはぐらかした末の言葉ではなさそうだった。
『だから、恋愛にはすごく興味があるの』
「好きな人を作りたいってこと?」
『うん、好きな人も…か、彼氏も欲しい…かな』
顔を真っ赤にした鈴木が恥ずかしそうに話すと、クラスにいた男たちの目付きが変わった。
そりゃそうだ、学校のマドンナがたった今目の前で恋愛宣言をしたのだから。
色めき立つクラスの中で僕は、今行われた恋愛宣言なんかよりも鈴木に苦手なことが存在したということに興味を奪われた。
この何でもこなすパーフェクトな鈴木美里の唯一の弱点。
──それが “恋愛”
「…すごいよね、鈴木」
そんなところも含めて、やっぱり彼女は完璧だと思った。