第15章 そして、走りだす
月島 side
その日の昼休み。
彼女の食べているお弁当を見て、合宿を思い出す。思い返してみれば、これまで教室で見てきた鈴木のお弁当はいつも彩り豊かで美味しそうだった。親が作ったのだろうと勝手に認識していたけど、今ならわかる。これも自分で作ってたんだな。
音駒の1番が言っていた“ハイスペック”というワードが頭をよぎる。ハイスペック…たしかにね。顔も頭も愛想も良くて料理もできる。そんで、部活のサポートもテーピングも完璧、ときたら…鈴木の頭を掻き乱すほどの出来事というのは一体なにがあるんだろう。
「…ねえ、キミって苦手なものとかないの?」
隣で、前後の席を合わせて案野さんたちとお弁当を食べている鈴木に話しかけた。
「あ、ツッキー!それ俺も気になってた!」
『苦手なもの?食べ物で?』
「いや、まあそれでもいいけど、嫌いとか怖いとか苦手なこととか」
「鈴木さん、なんでも完璧だもんね」
『そんなことないって!うーん…あるよ、いっぱい』
「例えば?」
『お化けとか、閉鎖された空間とか…』
「へえ」
『あ、あと……恋愛、とか?』
「…はぁ?」
思いもよらない言葉に随分と間抜けな声が出てしまった。