第2章 白鳥沢受けることにした
白鳥沢学園に背を向けて歩き出した私たち。
「なあ」
『…』
「おい」
『…』
「鈴木さん」
『…』
「チッ……美里!」
『!?』
「お前、なんでそんな顔してんだよ」
『え?』
「まるで落ちたみてぇな」
『……』
「まさか、俺に申し訳ないとか思ってんじゃねえだろうな?」
『ちがっ』
「じゃあなんなんだよ!」
『わかんない…』
そう、本当にわからないんだ。どうしてこんな気持ちになるのか。どうして自身の合格を微塵も喜ぶことができないのか。
「…よかったじゃねーか」
『え?』
「行きたかった第一志望、合格だろ」
『……』
「最難関 白鳥沢、すげーじゃん」
『そんな、』
「そういやお前学年トップなんだってな、聞いてねーよ」
『でも…そんなの取ったって、何にもならない』
「は?なってんだろ、今回だって」
『別にいらなかった、ほしくなかった』
「…んだよ、それ」
飛雄が立ち止まる。
『影山くん?』
「なんなんだよ、お前。行きたいとこ行くために毎日努力して、いざ受かったらウジウジウジウジ湿気たツラ。普通に喜びゃいいだろうが、いつも通りバカみたいに感情を表に出して、泣いて喜びゃいいだろうが!」
『だって…!!!』
「んだよ」
『だって…嬉しくなかった』
「…は?」
『合格したの知って、すごく悲しかった』
「なあ、お前さ。マジで喧嘩売ってんの?」
『売ってないよ…』
「じゃあ俺の前でそれ言えるってどんな神経してんだよ!」
『…っ!』
たしかにその通りだ。
第一志望の合格に向けて、彼は彼なりに最大限努力していたのだ。今回の不合格はさぞ悔しかっただろう。そして、彼はそんな中でも私のために労いと祝福の言葉をかけてくれた。
その飛雄に対して、私は今ここでどれだけ酷いことを口にしたのだろうか、私はなんて最低な人間なのだろうか。
『ご、めん…ごめんね…っ』
ぽたぽたと涙がこぼれる。
それを見た飛雄は、目を丸くして開いていた距離をつめた。
「…悪かった、俺も言いす」
『寂し、く…なった…』
「ん?」
『離ればなれになるのが…寂しかった、から』
不意に出た自分の言葉に心底納得した。
ああ、私は寂しかったんだ。
この幼なじみと離れることが。