第2章 白鳥沢受けることにした
入試から5日、合格発表の日がやってきた。
自己採点で既にHPが0の飛雄は、それはもうげっそりとやつれていた。答えはおろか問題の意味すら分からず、うちの母の分からなかったら飛ばすを実行し全教科開始5分で最終問題にいたらしい。
「…俺もう結果わかってる」
『それはノーコメントで』
今日は電車に乗って白鳥沢学園へ向かった。朝のこの時間は、通勤通学ラッシュで乗った瞬間に人の波にのまれ身動きが取れなくなった。
『わ、ぶ…』
サラリーマン×3にぺしゃんこに押し潰されている私は呼吸をするのにも必死だった。そんな私を見るに見かねたのか、ドア側に流れ着いた飛雄はグイ、と私の腕を引いた。そして、そのまま私と体の位置をいれかえるように回転すると。ドアと飛雄の間に私を収めてくれた。ドアに腕を張って私の空間を作ってくれている彼を見上げる。
『か、影山くん…ありがとう』
あれ?もしかしてこれって俗に言う“壁ドン”というやつでは…?そう思ったらこの状況に対して少しときめいた。すると、ニヤリと意地悪そうに口角を上げた彼が口パクで「チービ」と言った。今すぐ私の貴重なときめきを返してほしい。
「…降りるぞ」
合格発表を見に来たのか、同じような制服姿の学生が一気にその駅で降りた。
学校に到着すると、あの立派な門のすぐ奥にたくさんの番号が書かれた掲示板が設置されていた。飛雄は自分の番号を探す気もないのか、校舎を眺めている。ここでもまた人の波に押されながら手元の受験票を確認した。
番号は〈240401〉
240368…240376…240382…
「お、鈴木さんのあるぞ、240401」
いつの間に私の背後にいたのか、背が高く他の人よりも視界良好な飛雄が私の番号を先に見つけた。
『っ……ねえ、影山くんのは!?』
「あ?喧嘩売ってんのか」
白鳥沢学園に合格したのは私だけだった。
こんなに泣いて合格を喜び、悲しみを露わにしている集団の中で、自分の番号があると聞いた瞬間、静かに絶望を感じたのは何故だろう。
受験票をくしゃくしゃになるくらいに握り締めて涙を流すあの女の子に自分の合格を譲ってあげたいと心の底から思った。
…ないとわかっていても、
飛雄の番号がそこにあってほしかった。