第12章 いつもの夜
影山 side
俺の手を両手で包むように握った美里はようやく目を瞑った。
『影山くんの手…大きくてあったかくて安心する』
「……そーかよ」
『ねえ…名前で呼んでもいい?』
「好きにしろ」
もし今誰かが入ってきたら、どちらにせよ完全にアウトだ。
『…飛雄、本当にありがとう』
「ああ」
『飛雄はいつも私を助けてくれるね…』
「……」
『今日も…入学式のときも…及川さんのときも…』
「最後のは本当に気をつけろよ」
『…大丈夫、これからもきっと飛雄がたすけてくれるから』
「そんなんわかんねえだろ」
『わかるよ…とびおのことだもん』
「…んだよ、それ」
段々と美里の声が吐息混じりの眠そうな声に変わっていく。
『とびおは、私のだめなとこ…いっぱい知ってる』
「…ああ。我儘なとこ、泣き虫なとこ、異常に寂しがりなとこ、俺に心配ばっかかけるとこ」
『……やっぱりいじわる』
「安心しろよ、お前は完璧なんかじゃねえ」
『うん…ありがとう』
「でも、みんなの前では完璧でいろよ」
『………ん?』
「俺だけでいいだろ、お前のダメなところを知ってるのは」
『……ふふ、とびお……だけ、』
寝た。
「…おやすみ、美里」
静かに寝息を立てる美里を見て、いつもの夜だと思った。俺もさっきからあくびが止まらない。そろそろ部屋に戻ろうとゆっくり手を引っ込めると、美里の手に力が入って眉がピクリと動く。
「……おい、バカ…俺もねみいって」
もう少し、
もう少しだけ…
そう心で唱えながら、重い瞼と格闘した。