第12章 いつもの夜
1人で入る広いお風呂はなんだか不気味で、髪を洗いながら何度もキョロキョロと見回してしまった。とにかく一刻も早く部屋に戻りたくて、ドライヤーで髪が乾き切る前に急いで身支度を整えた。
ガラガラ、とドアを開けるとお風呂の外のベンチには何故か飛雄が座っていた。
『…っあれ、影山くん?』
声をかけると、飛雄は私を見てスッと立ち上がった。手には、すぐそこの自販機で買ったであろう紙パックのアップルティーを持っていた。飛雄がアップルティー…?
「行くぞ」
『え?』
「あ?…戻んねえのかよ」
『…どういう?』
さも私を待っていたかのような行動が不思議で首を傾げる。
「怖かったろ」
『!』
「お前、昔からこういう雰囲気のところ苦手だもんな」
『もしかして…待っててくれたの?』
すると飛雄は意地悪そうに口角を上げながら、私にアップルティーを放り投げた。
「お前の考えてることは大体わかんだよ」
『………』
「なんだよ?」
『さっき食堂に残ってたのもそういうこと?』
「あー…」
『私が1人だと心細くなるのわかってて一緒にいてくれたの?』
「まあ…それもある」
『それも?』
「っ、いいんだよ!…んなことより、まだ髪濡れてんぞ」
『あぁ…急いで出てきたから』
「ったく、いつも俺にはちゃんと乾かせって言うくせにな」
『だって…』
「それにただ古いってだけで、別に怖くもなんともねえだろうがこんなとこ」
『もー!せっかく優しいなって思ったのに!』
「あ?優しいだろうが」
『優しいけど…少しいじわる!べ、べつに私だって怖くなんかないしね!』
「へえ…、まあこれから4日間、夜はあの部屋に1人で寝るんだもんな」
『そうだけど!?』
「大部屋からは離れてるし、トイレは隣だけど」
『だからなに!』
「怖いとか言ってらんねえよな、鈴木さん?」
『うっ……だから怖くないって』
「そうか、じゃあ先に行く」
『ま、待ってよ!』
私は大股で歩き出す飛雄を走って追いかけた。