第12章 いつもの夜
月島 side
嫌で嫌で仕方なかった合宿に、ほんの少しだけ前向きになれたのは僕が単純だからなのか。
食べるという行為自体が面倒くさいし、食べないで生きられる方法があるのなら是非そうしたいくらいには、僕は食に興味がない。それに、人間の欲そのものって感じが、少し恥ずかしくて苦手だった。
でも、今日は匂いだけでお腹が空いてデザートまで完食してしまった。隣の山口もだいぶ驚いていたし、何より僕自身が一番驚いていた。
菅原さんが突然結婚しようとか言い出したけど、胃袋を掴まれるっていうのは、多分こういうことなんだろうなと思う。
「次1年風呂」
「あ、はい!ツッキーいこ?」
「うん」
「良かったね、芋洗いじゃなくて」
「でも湯船が汚さそうでやだ」
「なんか鈴木が最後だから綺麗に使うって言ってたよ」
「じゃあ鈴木の運命は残り2人の問題児次第ってことだね」
「ははは!たしかに…って、あれ影山は?」
「先行ったんじゃないの?」
「いや、もうずっといない気がするけど…」
「え?」
「ああ、影山なら食堂にいたよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん、さっき水汲みに行ったら食堂でバレー日誌書いてた」
「…なんで食堂?」
「俺も聞いたんだけど、鈴木が1人だと寂しいから話し相手に残ってほしいって頼んだらしいよ」
「あぁ、清水先輩帰っちゃったしね…」
「でもよりによって王様に頼むとか、やっぱり鈴木ってチョット変わってるよね」
「言えてる!縁下さんありがとうございます。声掛けてから風呂行きます」
「おう、頼むよ」
「はあ…めんどくさ」
「まあ、通り道だしさ」
僕たちは支度をして、食堂へと向かった。