第10章 東と西
「あとはセッターか…俺やりてえけど外から見てなきゃだしな…お前らのほうから1人セッター貸してくれ」
「「………」」
飛雄と菅原先輩の間にただならぬ空気が走る。
すると、決心したかのように菅原先輩が町内会チームへ歩き出す。
「…俺に譲るとかじゃないですよね」
「……」
「菅原さんが退いて俺が繰り上げ…みたいの、ゴメンですよ」
「…俺は…影山が入ってきて…正セッター争いしてやるって思う反面、どっかで…ほっとしてた気がする…。セッターはチームの攻撃の軸だ。一番頑丈でなくちゃいけない…でも俺は、トスをあげることに…ビビってた…俺のトスでまたスパイカーが何度もブロックに捕まるのが恐くて、圧倒的な実力の影山の陰に隠れて…安心…してたんだ…!」
菅原先輩の後ろ姿を私たちは見つめていた。
「…スパイクがブロックに捕まる瞬間考えると、今でも恐い…けど、もう一回俺にトスを上げさせてくれ、旭」
「……!」
「…だから俺はこっちに入るよ、影山」
「!」
「負けないからな」
「俺もっス」
飛雄がグッと拳を握る。
青葉城西との練習試合で当たり前のように試合に出ていたけど、それは青葉城西の条件であってレギュラー入りが決定していたわけでない。コートの中で1人しか存在できないセッターやリベロは、どうしてもポジションが被れば争わなくてはいけない。
例え誰が相手でも負けたくないし負けない、2人からはそんな強い意志を感じられてとても頼もしく感じる。きっと、プライドをかけてバレーに取り組んできたんだろうな。
…飛雄はとくに。
私は頑張れ、と2人を心の中で応援した。