第9章 “特殊”な私たち
月島 side
4月も後半。
そろそろ学ランもキツイくらいの陽気だ。
僕は風に揺れる木を見ていた。
枝から緑の葉っぱが落ちて、それを追うように目線を下げると自販機にいる1組の男女が目に入った。
──えっ、
その2人はよく知った人物だった。
鈴木は昼に案野さんに用事があると言って教室を出ていったはず。どうして王様なんかといるんだ?
「…ねえやま」
山口、と呼ぼうとして僕は口を噤んだ。
…というより、声が出なくなった。
「なに、ツッキー」
「………」
王様が鈴木の髪に触れていたから。
スッと一瞬髪を梳くくらいの些細なものだったと思う。でも僕がその行為を異常だと感じるには十分だった。だって普通に考えて、男が女の髪に触れるなんてありえなくないか?いくらあの王様だって、そんなことくらいわかっているはずだ。
でもそれ以上に驚いたのは、鈴木が影山に髪を触られることに対して全く動じていなかったこと。
影山は2つ買った飲み物を1つ鈴木に差し出して踵を返した。
……なんだったんだ、今の。
「…ツッキー、どうかしたの?」
「…………いや、なんでもない」
しばらくすると階段の角から鈴木がやってきた。
手には先程影山から手渡された飲み物を持って。