第9章 “特殊”な私たち
「鈴木さんは、影山くんのことをとても大切に想っているんですね」
『えっ……あ、はい』
「それはきっと影山くんも同じだと思います」
『そうでしょうか』
「だって、自分の将来の夢を笑うことも疑うこともなく、“将来世界を相手にバレーボールをします”なんて断言してくれる人なかなかいないでしょうからね」
『………っ』
私はなんだか少し気恥ずかしくなる。
「これまでに同じような事情の生徒を受け持ったことがないので、これからどのようなことに注意するべきかをまだ把握しきれていないのですが、心配しなくても大丈夫ですよ。必ず “何とかしてみせます”から!」
『ありがとうございます!』
「ふふ…何とかしてみせますって、心強い言葉ですよね。キミが青葉城西のベンチに向かった時に素敵な言葉だと思いましたので、早速使わせていただきました」
『あはは、嬉しいです』
「それと、新入生代表の挨拶…忘れられません」
『そんな…!光栄です』
「キミたちが卒業するときには、僕らは親鳥のような気持ちになるでしょうか。飛び立つ何羽もの大きな翼たちを見上げながら、このままどうか平穏に、嵐になど出くわさないで欲しいと心から祈るでしょうか」
武田先生は遠くの空を見ながら、切なげにそう言った。そして、次の瞬間少し慌てたように取り繕う。
「す、すみません…ポエミーでしたよね。僕、現代文が担当なので職業病のようなものが…」
『きっと…飛び立った翼は不安から何度も振り返ってしまうでしょうね。でも、目の前は希望に満ちているので例え嵐に出くわしても翼は畳みません。安心して見守っていてください』
「…っ…はい、任せてください」
私たちは顔を見合わせて笑った。