第9章 “特殊”な私たち
「……なるほど、そんな事情が」
『はい、隠していると言えば隠しているのですが、それは余計なトラブルに巻き込まれたくないのと、不必要に茶化されたくなくて…ただそれだけのことなんです』
「うん、大丈夫、わかっています。誰にだって、知られたくないことや踏み込まれたくないことはありますし、ありのままをさらけ出すことだけが正義ではないですしね。…でも正直かなり驚きました、昨日の練習試合でも2人は初対面なんだとばかり思っていましたので」
『もう慣れてしまったんですよね、影山くんと他人のフリをすることに』
「でも、キミはそんな影山くんのいるバレー部にマネージャーとしての入部を決めた」
『…はい』
「これは単純に僕の興味本位なので、答えたくなければ答えなくて結構です。これまで他人のフリをし続けた影山くんと、接点を持とうと思ったきっかけはなんですか?」
『私の夢は、彼のバレー人生を支えることです』
「…バレー人生」
『はい、影山くんは将来世界を相手にバレーボールをします』
「………」
『応援はこれまでにもたくさんしてきました。でも、限りある時間だからこそ、今までよりももっと近くで見ていたい、応援したいと思いました』
「……うん」
『影山くんは、1分1秒ごとに遠くに行ってしまう…昨日改めてそう感じました。だから見失わないように、その夢の先へ一緒に辿り着けるように、私は入部を決めました。……あっ、もちろんそのことで皆さんには絶対に迷惑を掛けません!それに、他の部員の皆さんのこともしっかりとサポートします、もっともっとたくさん勉強して』
「ふふ、もちろん理解しています。鈴木さんも影山くんも、お互いの存在を糧に高みを目指すことの出来る人たちだと信じていますから。それに、昨日青葉城西の監督さんも仰っていました。鈴木さんは必ず烏野の勝利の女神になるだろうと」
『!?…そ、それはちょっと大袈裟ですね』
「おや?僕は大袈裟だなんて思いませんよ、鈴木さんには期待しかないので」
武田先生はそう言ってにっこりと微笑んだ。