第9章 “特殊”な私たち
影山 side
清水先輩の提案に俺は、率直にやべえと思った。入部当時はとにかく早くボールに触れたくて、書いたっけか?程度の記憶しかなかったが、今ハッキリと記憶が呼び起こされる。
俺は背を向けてボールを持つとサーブ練を始めた。俺が下手に声掛けたらおかしく思われるし、なんか逆に怪しい感じがしたから。
ボールの弾む音が響く。
俺にはボールの音以外に、美里の“やばいやばいやばいやばいやばい”という心の声が大音量で聞こえていた。
「え!もしかして鈴木さん住所思い出せなかったりする!?わかる!俺もなんか見て書かないと番地ごっちゃになるもん!」
『あっ日向くんも?仲間だ〜!私今一生懸命思い出してたんだけど、まだ緊張しちゃっててダメだった!』
0.1秒で日向の話に乗っかってみせた美里は、清水先輩にすみません明日でも良いですかと声をかけた。
これまで日向のボケ散らかしたところにイラついたことしかなかったが、今はそのボケに初めて感謝してやらなくもない気分だ。
「………」
まぁ明日にしたってすぐその時は来る。きっと美里は今、頭でどうすればいいか必死に考えているだろう。こういうことは俺よりも何手先をも読めるこいつに任せておこうと思った。