第9章 “特殊”な私たち
部屋の中央に可動式の壁があり、ボタンを押すと壁が開きひとつの大きな部屋になるというものだ。小さい頃の飛雄はとにかく寝相が悪くコロコロと転がってよくベッドから落ちたので、シングルベッドを2つ並べて事実上のキングベッド状態となっていた。こちらもまたリビングのドア同様、壁が閉まることはなく高校生になった今も、毎晩並んだベッドで寝ている。
中学生になったころ、飛雄の両親から閉めたくなったらいつでも閉めなさいよと言われたが、わかったと返事をして結局閉めていない。
世間的にはこれが特殊な状態だということ、もちろん私は分かっていた。小学校の時に、それは痛いほどに思い知らされたから。
でも私にとってはこれこそが当たり前の生活で、今更何の変化も望んでいなかった。実際、飛雄がどう感じているかは聞いたことがないけど。
──「まぁうちはちょっと特殊だし、本人たちにしか分からないこともあるんだろうから」
──「…にしたって特殊すぎんだよ」
1つの家だが世帯主は2人で、そのあたりは何も問題がない。学校に入学する時も、住所が同じことで初めに先生から確認の電話が入ることも慣れている。そして他人のフリをするために、どちらかが学校を休んでも連絡帳やプリントを渡したりはしないで欲しいことも学校側へ伝達済みだ。
それで凌いでこられたのは、関わりを持たないようにしていたから。
私は今この瞬間にそれを痛感した。
同じ部活で同じノートの
同じページ内に同じ住所を書くというのは、
他人のフリを続けるにあたって、
非常にまずい。
みんながなんとなく見ている中で、私は続きの文字が書き出せず言い訳ばかりを考えていた。