第2章 白鳥沢受けることにした
『…これと、これと……よし、OK』
白鳥沢学園への願書と必要書類をカバンにまとめ、私は部屋を出た。階段を降りると母がご飯の支度をしていた。
「願書ちゃんと持った?忘れ物ないようにしなさいよ」
『うん大丈夫、確認した!行ってくるね』
「あれ、飛雄は今日一緒じゃないの?」
『なんか数学の補講あるみたいで、別日に行くって』
「あはは!あの子らしいわ!アサちゃんの三者面談の話、今でも時々思い出し笑いしちゃうの!」
アサちゃんとは飛雄の母親のことで、2人は学生時代からの親友同士だ。アサちゃん、ユウちゃんと呼び合っていてとても仲が良い。ゲラゲラと笑い出す母に溜息をつきながら私はマフラーを巻いた。
『笑い事じゃないよ〜、ほんと』
「帰りの時間分かったら連絡しなさいね、あんまり遅くならないように」
『はーい、行ってきまーす』
外に出ると、ピュウと冷たい風が吹いた。
『さっぶぅ!』
スカートの下にタイツを履いてきて大正解だった。
暦は既に12月で私立受験までは残り1ヶ月ほど。
秋頃の進路面談で私が白鳥沢学園を第一志望に決めたことを担当の先生に伝えると、とても嬉しそうな顔をした直後、苦虫を噛み潰したような顰め面になったが、あれは一体なんだったのだろうか。…まあかくいう私も、その後の三者面談で先生を椅子から転げさせてしまったのだけれど。
駅から電車に乗ってしばらくすると、白鳥沢学園のある駅に着いた。ホームには白鳥沢学園の制服を着た人達がパラパラといる。
…あの制服、汚れたらどうするんだろうとぼんやり考えながら歩いていると願書を提出しにきたらしき中学生とすれ違った。
「ねえみてー!白鳥沢の制服!かわいい!!」
「憧れちゃうよねー!絶対一緒に着ようね!」
『…………』
自分もこの学校を第一志望にしている受験生だ、それなのに自分には是が非でも合格したいとか、あの制服を着たいとかそういう感情がないことに気付く。
しばらく歩いてふと顔を上げると、目の前に白鳥沢学園と書かれた門が見えた。
『……ひょえ〜、』
その広大な土地と綺麗な校舎に思わず、アホみたいな声を出してしまい慌てて口を手で塞ぐ。自分の場違い感になかなか敷地内に入ることが出来ずに立ち尽くしていると、誰かが背後から私の両肩に力強く触れた。