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【本音】(テニプリ 跡部)

第1章 1


賭けの期限は1ヶ月。
一月で、跡部は叶弥を堕とせなければ土下座。
一月で叶弥が堕ちれば、少なくとも此処にいる間は自分だけのもの。
その考えが、跡部の中を駆け巡る。
いや、待て。
俺は一体何をしている?
こんな意味のない賭けなんざ、する必要が何処にある。
そうまでして、手に入れる価値がある女なのか…?
放課後の喧騒が煩わしい。
部活に出る気がおきなかった跡部は、1人近くの木陰に転がって愚痴る。
あの時は、ああするのが得策だと思った。
あの女を堕とす為なら、と。
今思えば、馬鹿な考えだ。
勝っても負けても、何の特にもなりはしない。



「チッ、何やってんだ俺は」


呟いた言葉に、跡部は苛立ちを隠せない。
あいつ…渋希叶弥と名乗ったあの女の事を考えると、自分が自分じゃなくなるような気がして、余計に腹が立った。
初めて会った時とは、何処か違う感覚。
ただ手に入れるだけでは、物足りなくなってきている。
他に、何が…?



「あ、跡部」


悶々と考えを巡らせるうち、不意に聞き慣れた声がして身体をゆっくりと起き上がらせる。
目の前には、今の今まで跡部を悩ませていた女の姿。


「何の用だ?」
「ううん、別に用は無いよ。ただ見かけたから」
「用が無いならどっかいけ」
「何その言い方。跡部って、女なら誰にでも優しいんだと思ってた」
「うるせえな、今はそんな気分じゃねぇんだよ」
「へぇ、珍しい。跡部の頭の中は、いつも女の事ばかりじゃないんだ」




その言葉を聞いた瞬間。
跡部の中の隠れていた部分がズキリと痛んだ。
叶弥への感情。
今までに感じたことの無い衝動が、跡部の中を突き抜ける。


「きゃっ」


気が付くと、跡部は叶弥を押し倒していた。
思い切り倒れ込んだせいで身体をぶつけたのか、叶弥の顔が苦痛に歪んでいる。
けれど跡部は、それにはお構いなしに。
起き上がろうとする叶弥の唇に、無理矢理自分のそれを押し付けた。
乱暴で、深い、キス。
何度も何度も角度を変えて、重ねられる唇。
必死に抵抗する叶弥の身体を押さえ付けて、跡部はなおも唇を重ねる。
刹那、跡部の下唇に激痛が走った。
口の中に、独特な鉄の味が広がる。
そこで漸く、唇を噛まれたんだと理解した。



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