第9章 縁談
〈明智光秀 視点 〉
最初から、気づいていた。
あれは——嫉妬など、まるでわからぬ顔をして、嫉妬する女だと。
宴の席。
だから、わざと自分の隣に座らせた。
城下で評判の女を。
愛想もよく、距離も近い。
俺が笑えば、嬉しそうに身を寄せる。
それを、葉月は柱の影から見ていた。
視線が刺さる。
逸らすが、戻る。
気にしていないふりをしているが、握る手に力が入っている。
——可愛い。
もう少しだ。
さらに、笑みを深くする。
女が、俺の袖に触れた瞬間。
葉月の目が揺れた。
傷ついた顔をする。
そして、逃げる。
追わない。
追えば台無しだ。
狩りは、焦らぬのが鉄則なのだから。
城下でも同じことをした。
わざと距離を詰める。
わざと楽しげに話す。
葉月は、遠くから見ている。
目が合うが、すぐ逸らす。
……分かりやすい。
だが。
想定外だったのは、その夜だった。
………
部屋を訪ねてきたのは、葉月から。
障子が、勢いよく開く。
息を乱し、目を潤ませている。
「……どうした」
俺は冷静を装う。
「別に…」
葉月の強がる声が震えている。
「光秀さんは、誰とでも楽しそうですね」
来た。
俺は静かに笑う。
「妬いているのか?」
否定すると思っていた。
拗ねて、背を向けると思っていた。
だが、次の瞬間。
胸倉を掴まれた。
そして。
唇が、重なった。