第10章 もっと近くで
聞いたら、きっと崩れる気がしたから。
私たちの今の関係が。
けれど光秀さんは、
言わなくても分かっているみたいに、
ゆっくりと目を細めた。
「さあな」
光秀さんは、はぐらかすように笑う。
「お前が面白いから、だろうな」
「……っ」
やっぱり、そうだ。
特別なんかじゃない。
ただのおもちゃ。
それなのに。
「……それでも、いいです」
気づけば、そんな言葉が零れていた。
自分でも驚くくらい、素直な声で。
一瞬だけ、空気が止まる。
次の瞬間——
「……くく……」
今までとは違う、
少しだけ低くて、含みのある笑い。
「本当に、厄介な小娘だ」
そう言いながら、
また一歩、距離が詰められる。
さっきよりも、ゆっくりと。
逃げる時間を与えるみたいに。
それでも、逃げられないように。
「そんなことを言われたら…余計に手放せなくなるだろう?」
そう耳元で囁かれ、背筋が震えた。
…ああ、やっぱり。
この人は、ずるい。
優しくなんてないのに、
優しく見せるのが上手すぎる。
でも…
「……光秀さんになら…いいです」
小さく呟いた私に、
光秀さんは、ほんの一瞬だけ
本気で困ったような顔をした気がした。
——その理由を、私はまだ知らない。